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TSUNAGU CITY 2023 in NAGO特別講演『マイナンバーカード普及、その先に。』レポート

マイナンバーカードの申請率は80%(※)を超え、全国でマイナンバーカードを活用したサービスが続々と始まっています。これを受けて、xIDblogでは、オウンドメディア「みんなのデジタル社会」に掲載されていた、xIDや有識者によるマイナンバーカードの利活用に関するアイデアや提言をまとめた記事を一部修正し、リバイバル版として公開いたします。

※…2024年4月時点 参考:総務省「マイナンバーカード交付状況について

本講演は、2023年1月に開催された「TSUNAGU CITY 2023 in NAGO」の中で、一般社団法人デジタルアイデンティティ推進コンソーシアム理事/xID株式会社代表取締役CEOの日下光を迎え行われました。本レポートでは、日下による講演内容を書き起こし、当日投影された資料と共に一部ご紹介しています。


はじめに。

xID代表取締役CEO日下光

今回は「マイナンバーカード普及、その先に。」というテーマでお話します。 沖縄県はマイナンバーカードの交付率が全国的にも高くない地域です。これを機会に、名護の皆さんも一緒に、マイナンバーカードが普及した未来のことを考えていただければと思います。

マイナンバーカードについて正しく知る。

はじめに、マイナンバーカードについて正しく知ってもらうため、基本的なところからお話できればと思います。
マイナンバーカードとマイナンバーに関して、日本では大きな誤解があります。名前が似ているので誤解が生じやすいのですが、まったくの別物です。マイナンバーは全国民に割り振られている12桁の番号で、自ら役所に行って申請しなくても、すでに国から付与されています。マイナンバーカードは任意で必要な方だけ役所に行って申請しないと受領できないもので、公的な身分証明書です。

マイナンバーカードの使い道。

マイナンバーカードには大きく2つの使い道があります。
ひとつは対面での本人確認です。マイナンバーカードの券面には、証明写真や名前、住所といった情報が記載されており、公的な身分証明書として使用できます。
もうひとつはオンラインでの本人確認です。マイナンバーカードには、カード面に記載されている情報(氏名・住所・生年月日・性別・個人番号・本人の写真など)や電子署名を行うために使う秘密鍵(※1)と、それに対応する電子証明書などが搭載されてるICチップが付属されており、スマートフォンやICカードリーダーで読み込むことで、オンラインにおける本人確認のツールとして使うことができます。またオンラインで利用する際、マイナンバーカードは多要素認証(※2)が用いられているため、セキュアな本人確認が可能です。マイナンバーカードとパスワードが同時に盗まれるようなことがない限り、オンラインでなりすましに使用することはできません。

※1…秘密鍵とは、ICチップの外からは読み出すことも、コピーすることもできない巨大な乱数で、世界で一つ、そのチップの中だけに存在する値のこと。この秘密鍵を使うことで、そのカードの持ち主にしか作成できない電子署名を生成することができます。また、マイナンバーカードの電子証明書は、印鑑証明書のように、その電子署名を行った人物が誰かを証明することができます。
※2…3つの認証要素(所有・知識・生体)のいずれかを組み合わせて、不正なアクセスを防ぐ認証方式のこと。マイナンバーカードの場合は、本人がマイナンバーカードを所持している「所有要素」とパスワードの「知識要素」で安全に本人確認をすることができます。

マイナンバーカードは政府が発行するトラストアンカー。

マイナンバーカードは政府が発行するトラスト(信用)のアンカー(基点)だと言われています。マイナンバーカードを取得するまでに、役所を訪れたり、職員と対面で本人確認をされたりと面倒な手続きが多いですが、一度取ってしまえば、いままで何度も役所に訪れて行っていた本人確認や手続きの回数が減ります。また、インターネットで行われる行政手続きをはじめ、金融やヘルスケア、教育、スマートシティの分野でも本人確認として活用することができます。

これまで日本には公的な身分証明書がなかった。

日本ではこれまで国内で広く普及する身分証はありませんでした。運転免許証や健康保険証、パスポートといったものはありますが、これらは”何かの資格を証明する資格証明書”です。私たちは今まで、”資格証明書“を身分証の”代わり”として使用してきました。運転免許証やパスポートは発行が有料ですし、健康保険証は写真が付いていないため、身分証としてはあまり適格ではありませんでした。つまりマイナンバーカードは、政府が発行する無料で作れる唯一の公的身分証になります。

マイナンバーカードを取得しない理由。

内閣府がアンケート調査をした結果、マイナンバーカードを取得しない理由で一番多いのは「取得する必要性が感じられないから」という理由です。さらに他の理由を見ると「個人情報の漏えいが心配だから」「紛失や盗難が心配だから」といった”心配”というキーワードが入った理由も多く見られました。つまり”利便性を感じない”、”セキュリティーが不安”という声が、マイナンバーカードを取得しない理由の多くを占めていることが分かります。
私は、上記のアンケート結果や現状を見るに、マイナンバーカードを取得しない大きな理由は、心配を払拭するような機能が付いていない、マイナンバーカードを活用した便利なサービスが少ないからだと考えています。
私は、2017年から2020年まで、電子国家と称されるエストニアに住んでおり、現地企業の立ち上げやアドバイザーとして政府の仕事に携わっていました。エストニアは2002年からデジタルIDを中心とした国家のデジタル化を行い、eIDカード(エストニアのマイナンバーカードにあたる公的身分証)が普及しきっている国です。そこでeIDカードが普及しきったエストニアという国のお話ができればと思います。

電子国家エストニアのマイナンバーカード。

エストニアには、日本のマイナンバーカードにあたるeIDカード(公的身分証)があり、普及率は99%とほぼすべての国民が取得しています。さらに行政サービスのオンライン化率は99%で、結婚・離婚・不動産登記以外は全てオンライン化されています。
電子国家として知られるエストニアがeIDカードを導入した理由は、行政の透明性を確保するためだと言われています。 エストニアは人口約132万人の国家で、沖縄県の総人口とほぼ同じです。国土面積は九州と沖縄を合わせたほどの大きさで、その中に約132万の国民が住んでいます。さらに約1500ほどの島も有しており、その半分に住民がいるなど、国内に過疎地域が多くあります。 上記の理由から、各地に役所を作り職員を配置するのは難しく、インターネットを通してオンラインで行政サービスを提供するデジタル化にならざるおえなかったという背景があります。デジタル化を進めることによって行政の情報開示が積極的に行われ、国民は、行政が公開するあらゆる情報をeIDカードからアクセスして閲覧できるため、政府と国民、お互いの透明性を担保できています。
デジタル化による恩恵を1つ挙げるとすると、私は「スピード」だと考えています。エストニアでは電子納税申告システム「e-Tax」(※)を使用して、税務申告の約96%が電子申請によって行われており、「3分」ほどで自身の納税申告データの確認作業を完了することができると言われています。また税の還付がある場合、電子申請だと最短3日後に還付されます。日本だと3か月以上かかる場合もあるため、どれほど早いかが分かります。

※…e-Taxは、エストニア税務・関税局によって設立された電子申告システムです。参照:e-Tax – e-エストニア

なぜいまマイナンバーカードが必要なのか。

いま話題となっているマイナンバーカードですが、なぜいまマイナンバーカードが必要とされているのでしょうか。現在の社会課題をベースに説明します。
インターネットで検索すると、運転免許書や保険証などの偽造身分証作成代行サイトが多くみられます。またコロナ禍において、偽造身分証でつくった銀行口座が売買される事案も起きるなど、今まで身分証を使ってやり取りしてきたことに問題が起きています。
他にも、顔写真をあらゆる角度から撮影し、運転免許証やパスポートをアップロードしてオンライン上で本人確認を行うeKYC(※)という方法がありますが、実はいま、この本人確認の方法で問題が起きています。身分証と顔写真を照合して本人確認をする際、アップロードされた身分証が”本物かどうか”が、オンラインでは断定できないのです。これらの課題を解決するには、マイナンバーカードを活用したデジタルな仕組みを作ることが最適だと考えています。

※…eKYC(electronic Know Your Customer)とはオンライン上で完結する本人確認方法のこと。参照:国土交通省「eKYC ウェブマニュアル」 

マイナンバーカード普及、その先に。

ここからは、マイナンバーカード普及後の社会についてもお話できればと思います。

マイナンバーカードの利活用サービス事例。

すでにマイナンバーカードを活用した様々な取り組みやサービスが全国ではじまっています。 オンライン施設予約、参加型合意形成プラットフォーム、ワンスオンリーな引っ越し手続き、地域通貨やデジタル商品券、完全オンライン完結の電子図書館など、行政から要望があって進められているものだけではなく、民間企業が自発的に開発を進めているサービスも多くあります。

マイナンバーカード普及・利活用を促進するGovtech(ガブテック)について。

みなさんはGovtech(※)という言葉をご存知でしょうか? Govtechとは、Government(行政)とTechnology(技術)を組み合わせた造語です。Govtechは、民間企業のテクノロジーやIT技術を活用し、行政の業務効率を高めることを目的とした取り組みです。 今までは、大きな企業が官民・公共分野が公開した要件に基づいて、独自でサービスを作ってきました。これからは、企業規模にかかわらず官民一体となって、住民のために何が必要なのかを一緒に考えながら進めていき、他の自治体でも使える汎用性の高いサービスを作っていくことが大事です。Govtechは、すでに国外では注目を集めていて、2019年~2021年の期間で、Govtechスタートアップには世界的に1.2兆円の投資が行われています。1つの自治体でしか使用できないガラパゴスなサービスの導入や従来の公共調達制度の見直し、公共調達に頼らないビジネスモデルによる社会課題解決など、Govtechの今後の役割に大きな期待がよせられています。
今後日本のGovtech企業がさらに成長するには、マイナンバーカードの利活用が重要です。民間企業から、マイナンバーカードを活用したサービスをどんどん発信することで住民の利便性が向上し、マイナンバーカードの普及・利活用が進みます。するとさらにGovtech企業が成長する領域が増えます。マイナンバーカードの機能を利活用したサービスが増えしていくことが、Govtechの今後の役割の1つだと私は考えています。

参考…xIDblog「Govtech(ガブテック)とは?推進するメリットや国内事例についても紹介!


マイナンバーカードの普及で変わる社会。

マイナンバーカードが普及した先に、どういった社会を目指せるのか、未来はどう変わるのか。私が想定していることを3点ほどご紹介します。

マイナンバーカードをスマートに利活用できる社会の実現。

現在、私たちがマイナンバーカードをよく使用する場所として、役所が挙げられます。例えば、引っ越しの転出・転入や住民票の発行などの行政手続きを役所の窓口で行う際には、その都度本人確認が行われます。私も最近引っ越しをして、手続きをしましたが、正直「何回本人確認作業をするのだろう…」と感じました。このような煩わしさがマイナンバーカードを活用したデジタルIDを使用することで解消されると私は考えています。デジタルIDとは、Web上で自分であることを証明するデジタルの身分証明書です。マイナンバーカードを活用することで、デジタルで使える公的な身分証明書となり、行政手続きをオンラインで行うことができます。
デジタルIDを作って本人確認を行うのは、行政だけではなく公共分野や民間サービスでも同じです。私は、デジタルIDを使用するあらゆるサービスにおいて、マイナンバーカードの利活用を行うことで、住民がマイナンバーカードの利便性をさらに感じることができ、マイナンバーカードの更なる普及に繋がると考えています。

マイナンバーカードの普及で期待できるコスト削減。

記憶に新しい新型コロナ対応で配られたさまざまな給付金や支援金の給付コストは、約7000億円だと言われています。郵送で送られてくる給付金申請書の口座情報の入力や申請書の印刷・発送作業、住民からの問い合わせ対応など、事務的コストがかかります。マイナンバーカードが普及していれば、オンラインで本人確認が済むため、申請書を印刷・発送したり、人やコストをかけての申請書確認作業などの作業が減少します。そのため約7000億円計上されていた給付コストを大幅に削減して、その分を給付やその他の支援に回すこともできます。
マイナンバーカードの活用を進めている自治体の取り組みとして、自治体から住民への郵送業務をデジタル化する郵送DXの事例をご紹介します。これまで自治体は通知物の制作・印刷・封入・封緘作業と管理業務を行っていました。マイナンバーカードを活用すれば、対面での本人確認の必要がなくなるため、通知物の制作・管理にかかる予算や業務時間、窓口における申請書作成依頼・確認業務を大幅に減らすことが出来ます。自治体における郵送DXは、すでにいくつかの自治体で取り組みが始まっており、今後全国の自治体に広がると思います。

住民一人ひとりに向き合うデジタル化・パーソナライズ。

マイナンバーカードを活用したデジタルIDは、個人情報を保護しつつ、自治体が住民サービスの利用者をオンライン上で識別できる、業務効率化に留まらず「自治体と住民の関係性を変えうる」ものです。
デジタルIDを活用することで、自治体から提供するサービスを、住民一人ひとりに合わせてパーソナライズすることが可能になります。自治体ポータルやウェブサイト上でも、デジタルIDを活用することで、今までの全体最適された情報から、住民一人ひとりに合わせて最適化された情報の提供ができるようになります。

まとめ。

このようにマイナンバーカードがさらに普及し利活用が進むと、国民にとってより便利な社会を築くことができます。これから行政のデジタル化が進むにつれて、住民一人ひとりが当事者としてデジタル化、まちづくりに関わっていくことが大切です。「このサービスは良かった」「ここはデジタル化した方が良い」そういった住民一人ひとりの声がまちを良くしていきます。マイナンバーカードを活用して社会がより良くなっていくことを願っています。

最後に。

TSUNAGU CITY 2023 in NAGO特別講演『マイナンバーカード普及、その先に。』のレポートはいかがでしたでしょうか。最後に今回の記事のおさらいをしましょう。

使いやすく、信頼性の高いIDが必要
 行政手続きはもとより、官民DXを推進するにあたって、使いやすく、信頼性の高い(少なくとも保証レベル2以上)の本人確認手法が求められている。
本人確認手法の欠如がデジタル化の足枷に
 
一方で、マイナンバーカードが登場するまで、オンライン上での使いやすさと信頼性を兼ね備えた本人確認手法は存在せず、特に行政分野や医療分野等でデジタル化が進まないことの原因となっていた。
マイナンバーカードは官民DXの最重要基盤
 
今後、対面や紙面で執り行われていた手続きやサービスのデジタル化を推進するにあたり、個人のトラストを保証する「マイナンバーカード普及政策」は、官民DX推進の一丁目一番地となっている。
マイナンバーカード普及、その先にあるより良い社会
 
マイナンバーカードの普及とGovtechの登場で、今後は官民一体となって社会のデジタル化が進んでいきます。さらに住民が当事者意識をもってまちづくりに携わることで、社会をより良くしていくことが期待されています。

マイナンバーカード、電子国家エストニアの事例、Govtech企業など、これからのデジタル化社会のヒントとなるようなキーワードがたくさん出てきました。

xIDでは金融機関アプリや自治体サービスへのマイナンバーカード実装に向けたご相談の対応を随時承っておりますので、下記連絡先よりお気軽にお問い合わせください。