【動画付】オンラインセミナー『デンマークの先進事例から学ぶ自治体DXのあるべき姿』レポート
2022年9月6日、xID主催のオンラインセミナー『デンマークの先進事例から学ぶ自治体DXのあるべき姿』が開催された。
本セミナーはロスキレ大学サステナブル・デジタリゼーション准教授の安岡美佳氏、元船橋市デジタル行政推進課の千葉大右氏を迎え、デンマークの電子政府とデジタルポスト活用の現状をアジェンダとしてディスカッションが行われた。
本記事では、その内容をダイジェストでお届けする。
幸福とデジタル化を実現した国デンマーク
安岡氏は、2005年に北欧に移住し、2010年にコペンハーゲンIT大学で博士号を取得、現在、北欧在住。
安岡氏によると、デンマークは教育やワークライフ・バランスが充実しており、イノベーションも盛んな国だと言う。また、World Happiness Reportによると、2021年の世界幸福度ランキングでも3位となるなど、国民の幸福度が高いことでも知られている。
また、デンマークは日本や国連が調査する電子政府ランキングでも上位に位置するデジタル大国でもある。
本セミナーでは、そんなデジタル社会と幸福度を両立させているデンマークのデジタル施策について紹介された。
個人番号からさまざまなサービスを受けられる
デンマークは電子政府の先進国でもある。
デンマークでは日本でいうマイナンバーにあたる「CPR」という個人番号があり、1968年から導入されている。
行政手続きではこのCPRがベースとされ、個人認証・署名(MitID)を行うことでデジタル手続きが可能だ。
市民はMitIDを通して、市民ポータルにアクセスして公共機関が管理する自分自身の情報を確認したり、eBoksと呼ばれるメールサービスを通して個人に特化した行政手続き関連の情報を受け取ることができる。
他にも、情報の電子化により、適切なワクチン計画の策定、学校からの一斉連絡・個別連絡の簡略化、政府との連絡口座からのコロナ支援金の受け取りを可能にするなど、市民のニーズを反映した生活インフラが構築されている。
では、なぜデンマークはこれほど先進的な電子政府に成長したのだろうか。これに関して、安岡氏は次のように語る。
「電子政府に関しては、デンマークが特別世界の中で優れた先端技術をもっているというわけではありません。スーパー電子社会のように見えるかもしれませんが、個別の技術を見てみると、既存の技術を使っているだけだったり、光ファイバー網が整備されて一般人がアクセスできるようになったのは2,3年前、少し前まではADSLが中心の国でした。そのような中で、何がよかったかというと、人や組織、社会を見て、多様性配慮のもとにシステムが導入されたという点で、これが、現在の電子政府の成功につながっていると思っています」
90%以上の利用率を誇る「デジタルポスト」
次に、デンマークのデジタルポスト(電子私書箱)について詳細な解説がなされた。
デジタルポストは公共機関からの連絡を受け取ることができる、個人・法人用の電子私書箱だ。政府からの行政手続きに関する連絡のほか、年金や給与明細、医療機関からの健診結果など、生活に欠かせないさまざまな公的情報を受け取ることが可能だ。
ただし、これらの施策は必ずしもスムーズに社会に浸透していったわけではない。2014年までに全国民がデジタルポストを利用することを目標に、2013年にはデジタルポストに関するイベントが全国で開催されたり短編映画が制作されソーシャルメディアで公開されたり、図書館や市民窓口で市民に周知するなど、積極的な広報活動も行われた。
その結果として、2022年6月時点で93%の市民が利用するまでになっている。
また、電子政府を進める上で懸念されるのが、高齢者の利用の難しさだ。日本でも、ネット環境に慣れ親しんでいる若者と、慣れていない高齢者の間で情報格差が生じてしまうことが懸念されている。
しかし、デンマーク政府の統計によると、デジタルポストのメッセージを開封していない層は、高齢者よりもむしろ若年層で多いことがわかっている。
「デンマークデジタル社会庁の分析によると、高齢者は社会のニーズについてよく理解しているからこそ、不慣れな作業であっても周囲に手助けしてもらいながら、わからないなりにアクセスをするとされています。昔の論文では、高齢者の身体能力の低下などを理由に、より若年層との間でデジタルデバイドが発生すると指摘されていましたが、このデータを見ると、そうともいえないのではないかと考えられます」
このようなデジタルポストの利用拡大には、積極的な普及促進施策だけでなく、半ば強制的なICTの導入や、ユーザビリティに配慮したシステム・アプリの開発、高齢者を手助けするインフォーマルサポーターの存在なども大きい。
デンマークの電子政府化は、単なる先端技術の利用というだけではなく、既存の社会システムに下支えされながら発展してきたと言えるだろう。
デンマークでの制度の受容と日本の今後の展開
後半では、安岡氏に加え、千葉氏、日下を加えた3者によるパネルディスカッションが行われた。
安岡氏の講演を聞いた上で千葉氏は次のように語った。
「デジタルポストのログイン画面では、ログイン画面に自分の名前が載っていますね。日本のマイナポータルでは名前が載らない、4情報を画面に表示させない仕組みなので、そもそものところから違うなと感じましたね」
デンマークと日本を比較すると、個人番号をさまざまな領域で積極的に活用できるデンマークに比べ、日本の利用は3分野と狭い領域のみに許されているという違いがある。この点に関して、安岡氏はデンマーク国民の個人番号への理解を次のように語った。
「デンマークでは1968年から個人番号が導入されているため、マジョリティがこの制度に理解を示しているという点は大きいと思います。導入当時は人に見せることを極端に恐れる人も多かったですし、高齢の方では今でもそういった傾向が見られます。それでも、世代交代によって皆生まれたときから個人番号が付与されると、慣れが生じてきます。
私も最初に番号を与えられたときは抵抗がありましたが、この制度によるマイナスな要素は何もなく、メリットばかりを感じてきたため、不信感も次第に消えていきました。例えば、個人番号を病院に教えるだけで、過去の自分のカルテを病院側に知らせることができるため、面倒な書類や問診票を書く必要がありません。暮らしていてもとても便利だと感じています」
千葉氏は、今回のデンマークの事例を受けて、日本での今後の個人番号の普及に関して次のように語った。
「私はマイナンバー制度がはじまる前から個人番号関連の政策に関わっているという立場もあり、マイナンバーカードをもっと皆さんに使ってほしいと思っています。とは言え、皆さんの中には国が一元管理をするのではないかという誤解や、何となく隠しておきたいという心理をお持ちのかたもいらっしゃると思います。ただ、この障壁を突破するのは、やはり利便性だと思います。個人情報の心配をしている方であっても、Googleやfacebookなど便利なサービスに情報を預けています。我々も圧倒的に便利なサービスを展開して、多くの人に受け入れられるマイナンバーカードのサービスをつくらなければならないと考えています」
まとめ
オンラインセミナー『デンマークの先進事例から学ぶ自治体DXのあるべき姿』のレポートはいかがでしたでしょうか。
最後に今回の記事のおさらいをしましょう。
電子政府として知られるデンマークの先進事例は、デジタル社会に向かって進んでいる日本において、参考になる点が多いと思います。
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