金融機関でのマイナンバーカード活用の課題と海外での国民IDカード利活用事例~マイナンバーカードとデジタルIDの融合が切り拓くフィンテックの世界②~
前回の記事ではマイナンバーカードの概要や公的個人認証サービスの特徴やメリットの解説をしました。今回は実際に事業に活用するにあたり、すでに利活用が進んでいる金融機関はどのような課題に直面するのか、その対策や海外での国民IDカード活用事例についてお話します。
金融機関におけるマイナンバーカード活用の現状
既に日本の一部金融機関では、マイナンバーカードの公的個人認証サービスを利用した、犯罪収益移転防止法に基づくオンライン本人確認が始まっています。しかしながら、先行して採用しているネット銀行のPayPay銀行などを除けば、都市銀行や地方銀行も含めてこのサービスを取り入れている金融機関は24年5月時点で指の数ほどしかなく、まだ利用が普及していません。
金融機関でのマイナンバーカード活用を検討する上での課題
現状のオンライン本人確認には、コストやユーザー体験に関する課題があり、不正防止の観点からもマイナンバーカードの活用が急務となっています。
さらに、2023年の発表された政府の方針「デジタル社会の実現に向けた重点計画」から、2025年度以降にはオンライン本人確認の手法を公的個人認証に一本化する方針も進行中です。 では、なぜ導入が遅れているのでしょうか?その背景にはいくつかの課題があります。これまでの複数の金融機関の担当者との対話を踏まえて、以下にそのポイントをまとめます。
①マイナンバーカードの取得率〜 本当にすべての顧客をカバーできるのか?という疑問~
マイナンバーカードの申請率はすでに80%(※)を超えていますが、政府のマイナポイントキャンペーンが終わってから、取得ペースが遅くなってきています。カードを取得することに対してネガティブな国民もおり、普及率100%を目指すのは現実的ではないという意見も聞かれます。
この状況で、金融機関がマイナンバーカードによる本人確認を唯一の方法とするのは、顧客の選別につながるのではないかという懸念があります。そのため、金融機関は本当にそのような未来が訪れるのか、慎重に見守っているのが現状です。
②実装検討の難易度
導入を前向きに検討しても、公的個人認証サービスの専門性が高いため、真剣に考えるほど課題が増えます。単にベンダーに依頼すれば解決する問題ではなく、自社アプリ上でのサービスデザインが必要で、ネイティブアプリを持っていない金融機関の場合、ネイティブアプリの開発も検討しなければなりません。銀行アプリがOEMや汎用製品の場合、単独で意思決定できないこともあり、開発にはさまざまな制約があります。
また、マイナンバーカード・デジタルIDの具体的な金融機関での活用や実装に関する情報が不足していることや、相談できる事業者が非常に限られていることも、課題の一因です。
③ユーザー体験(UX)の課題
すでに自社アプリの本人確認で、犯罪収益移転防止法のホ方式(以下「犯収法ホ方式」)に基づいた身分証・顔写真のアップロードをするeKYC方式を採用している場合、マイナンバーカードの公的個人認証とは、ユーザー体験が大きく異なるため、アプリのユーザーインターフェースや画面遷移の変更が必要になる場合があります。
具体的には、公的個人認証を用いた本人確認では、名前、生年月日、性別、住所などの情報をマイナンバーカードから自動入力できるため、ユーザーの手入力を省略できます。このため、公的個人認証のメリットを最大限に引き出せます。しかし、従来のeKYCでは手入力を求めたり、身分証画像と入力情報の照合を行うプロセスが含まれているため、仕様変更が必要です。また、マイナンバーカードにはフリガナ情報が含まれていないため、この情報については引き続きユーザーに手入力してもらう必要があります。
海外の事例
導入すれば便利なマイナンバーカードですが、上記のように自社サービスに組み込むまででも様々な課題があることが分かりました。一方で海外ではすでに、行政や金融サービスにマイナンバーカードのような国民IDカードが導入され、運用が進んでいる国もあります。
ここでは、日本政府がデジタル化を推進する際に参考にしているデジタルID先進国エストニアの事例をご紹介します。
eIDカードの利活用が進んだエストニアの事例
エストニアは北欧・バルト三国に位置し、デジタル化政策を次々と推し進める電子国家として知られています。エストニアでは、政府が発行するeIDカード(日本のマイナンバーカードと同様のもの)がほぼ全国民に提供されており、同様に、民間企業が提供するSmart-IDアプリを利用することで、政府発行のIDカードを毎回読み取る必要がなくなり、アプリだけで安全で便利な認証や電子署名が可能です。
このようなシステムの導入により、エストニアでは「離婚」以外のあらゆる行政手続きがオンラインで完了できるようになっています。
オンラインバンキングでのデジタルIDの活用
エストニアでは、政府が発行するeIDカードやSmart-IDアプリが金融機関でも広く利用されています。これらを活用することで、オンラインで口座開設をはじめとする様々な手続きが可能です。たとえば、デジタルIDの電子署名は、マネー・ローンダリング防止対策(AML)や不正防止のために、100ユーロ以上の送金では国内外を問わず必須となります。
さらに、インターネットバンキングへのログインもこのデジタルIDで行われます。エストニアの主要な銀行では、口座開設やログイン、送金時の電子署名にデジタルIDを共通のインフラとして採用しており、それによって各銀行が個別に開発するコストが削減され、利用者にとっても利便性が向上します。このシステムは個人口座だけでなく法人口座でも利用されており、経理担当者が送金処理を行う際には、事前に登録した会社代表者のデジタルIDで電子署名を行うことが求められます。
日本では個人のIDを法人業務に利用することはまだ一般的ではありませんが、これがデジタルIDが広まった社会の典型的な例と言えるでしょう。日本での印鑑を使った稟議書類の押印と同じ感覚で考えれば、なじみやすいかもしれません。
デジタルIDの活用によるデータ連携
さらに、エストニアでは、このデジタルIDを利用したオンラインバンキングを通じて、銀行と政府の住所情報データベースやeTaxとの連携が可能です。これにより、住所変更手続きがオンラインですぐに完了し、給与受取口座との連携を活用した個人の確定申告もわずか3分で済みます。
さいごに
マイナンバーカード導入後の利便性は、デジタル先進国の例を見ても、顧客や事業者側として想像以上のものがあると思います。また上述したように、マイナンバーカード導入の時間も迫ってきています。そこで次の記事では、今まさに活用を検討している金融機関の担当者が悩んでいる3つの検討ポイントをご紹介します。
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